クジラに魅せられて、ウォール街の弁護士から転身し、水中カメラマンとして活躍するパトリック・ダイクストラとクジラたちの交流を映し出すドキュメンタリー映画『パトリックとクジラ 6000日の絆』が公開を迎え、パトリック・ダイクストラが来日!8月30日(土)に東京・新宿武蔵野館にて行われた舞台挨拶・Q&Aに出席した。

映画を観終えたばかりの観客の温かい拍手に迎えられたパトリック。来日は二度目とのことだが「一度目は2019年、パラオへ撮影に行く際のトランジットで一泊しただけでしたので、本格的に日本を訪れるのは今回が初めてです。日本での滞在をすごく楽しんでいますし、みなさん親切で、新宿駅でどこに行ったらいいのか? 迷子になりかけたけど、みなさんに助けてもらいました」と笑顔を見せた。
映画では、メスのマッコウクジラの“ドローレス”やパトリックが10年近くも交流をしている“キャンオープナー”らの姿が描かれるが、そもそも、この映画が制作されることになった経緯について、パトリックは「ディスカバリー・チャンネルの番組のためにドミニカに行った時に初めてドローレスと出会い、素晴らしい映像が撮れました。翌年もドミニカに行ったのですが、その時もドローレスと再会することができました。その映像をNetflixオリジナル『オクトパスの神秘: 海の賢者は語る』でアカデミー賞を受賞したジェームズ・リードに送ったら「素晴らしい!」と言ってくれて、一緒に映画を撮ることになったのです」と明かす。

映画を観ると、クジラの動きに驚かされるが、パトリックは撮影について「残念ながらクジラは素晴らしい俳優とは言えません(苦笑)。できることなら脚本を渡して「こういう動きをして」とお願いしたいところだけど、そういうわけにはいかず、待つしかありません。こちらに興味を持ってくれることもあれば、寝てしまうこともあるし、全く興味を示さないこともあります。実際、この映画は3年にわたって現地に通い続け、撮影しました。なかなか思うように動いてはくれないし、こちらの存在を認識してもらうにも時間がかかります。映画の中のたった3秒の映像を撮るのに、実際には2~3日かかっていたりします」と苦労を明かしてくれた。
ちなみに、パトリックによれば、たくさんいるクジラのうち、人間に興味を持ってくれるのは10頭に1頭くらいの割合だという「さらに、そのうちの3分の1くらいは、人間に対し非常に強い興味を持ってくれて、親密な関係になり、エサを食べるのを忘れて人間と一緒にいてくれたりします」とのこと。

この日、パトリックは映画を観たばかりの観客からの質問にも答えてくれたが「将来、海洋生物学者になりたい」という学生からアドバイスを求められると、パトリックは「日本の周辺の海はクジラが多いので、とてもラッキーだと思います。マッコウクジラ、ミンククジラ、ナガスクジラもいるし、特にオスのマッコウクジラが常に多くいるという珍しい地域です。ホエールウォッチングの関係者の方に話を聞くのも良いと思うし、研究者もたくさんいるので、そういう方とつながりを持って、ボランティアに参加するのも有効です。その先で、さらに必要であれば、私のインスタグラムにメッセージをいただければアドバイスを送ります」と助言を送った。

もともと、ウォール街で8年にわたって弁護士として働き、水中カメラマンになるための資金を貯めたというパトリック。現在も世界中の海を巡っているが、活動の資金、生活の基盤について尋ねられると「弁護士をしていた時代から、なるべくお金を節約して生活し、余ったお金を投資に回して、ある程度のお金を稼いだ時点で弁護士をやめました。いまは、映画をつくったり、あちこちで講演をしたりもしていますが、世界中の海で泳ぐためにはそうした活動の収入だけでは足りません。基本的に、投資のリターンによって生活しています」と明かした。
トークの最後にパトリックは、観客に感謝の思いを述べつつ「この映画を観る前よりもクジラのことを好きになってくださっていたら嬉しいです。クジラは個体ごとに個性があり、それぞれ性格が異なります。群れの中の1頭が死ぬだけでも非常に悲しいことなのです。クジラたちを尊重し、それぞれに性格や個性の違いがあることを理解していただけたら嬉しいです」と呼びかけ、会場は温かい拍手に包まれた。

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